VTechChallenge2019、はじめての開催、そして「VTuber技術特化・学生個人限定」という特殊なコンテストにもかかわらず、数多くの協賛企業やメディア、大学ゼミ等でご紹介いただきありがとうございました。世界中の高校・大学・大学院生から、計17研究をエントリーいただきました。
審査は基本的に(1)新規性、(2)技術力、(3)実現によるインパクトの3要素で評価いたしました。完成した研究であるかどうかは評価の軸にしない一方、良質な提案には審査事務局より実現に向けたアドバイスや、参考にすべき先行事例、実際にどんな場面で使えそうか?といったレビューをリアルタイムで複数回フィードバックさせていただきました。エントリーが早かった方も、ギリギリだった方も等しく、学生ならではの挑戦・進化成長・本気さをプラス評価いたしました。最終選考作品の決定に際しては 「この業界に紹介すべき才能とは?」という視点に立ち返り、最終選考会でのプロフェッショナリズムの発揮とパフォーマンス視点を加えてノミネート作品を決定いたしました。
審査事務局・GREE VR Studio Lab, Director 白井暁彦
利用者調査から見た日本におけるVRChat利用のコミュニティと経済圏
新保正悟
早稲田大学社会科学部/VLEAP CEO
- アバター社会
早稲田大学社会科学部/VLEAP CEO
- アバター社会
なぜVRChatは他のVRサービスと違い、これほどまでの熱狂的な人気を集めているのだろうか。形成された独自コミュニティと、Boothを中心とする3Dモデルの販売経済圏がその人気の要因であると仮定し、VRChatの利用実態と界隈のコミュニティやコミュニケーションの在り方、そして3DモデルやVR関連機器などの購買状況について調査した。
【公開済資料】
・序論と研究手法について
・VRChat利用者動向について
・オープンコミュニティについて
・クローズドコミュニティについて
・経済圏について
【講評】本研究はオンラインコミュニティに対する地道なフィールド調査で、動的で主観的なメタバースの定性的・定量的な可視化に成功しているという意味で新規性や技術、インパクトを評価したい。また卒業論文をベースにしつつもnoteやTwitterによる発信を行い、コミュニティへの貢献も大きい。
鏡像を用いたアバター交流体験の提案
石井 泰誠
電気通信大学 情報理工学域Ⅰ類
- キャラクター表現技術
- VTuber活動分野を広げる未来技術
電気通信大学 情報理工学域Ⅰ類
- キャラクター表現技術
- VTuber活動分野を広げる未来技術
鏡を模した設置型提示装置によるアバターとの近距離交流体験の提案。VTuberとファンである体験者が交流を行うリアルイベントに着目し、鏡を模したディスプレイに現実の体験者の姿と背景、アバターを鏡像として表示し体験者の認知空間上で近距離にアバターの存在を提示する提案。
【講評】大人たちのVTuber関連開発がHMDやスマートフォンでガチ恋距離を実装する挑戦をする中で、完全に装着物なしで多人数同時、かつちょっと自然なシチュエーションが作れるリアルイベント向けの体験アイディアはシンプルであるが秀逸。HapbeatとVRStudioLabが開発する「Haptic Minesweeper」とのコラボも可能性がある。
新しい力学センサの開発とセンサを使ったハンドトラッキングデバイスの提案
倉茂雄人 (公立はこだて未来大学システム情報科学部情報デザインコース)
Twitter
@Kagamine_Yu
- モーション認識/自動生成
- VTuber活動分野を広げる未来技術
- ハードウェア
VTuber等で使用されるハンドトラッキングデバイスは現状、磁気やジャイロといったセンサやカメラを使用して手の形状や動きを取得する。本研究は、それらを解決するために、杉浦らが2012年に発表したMetaSkinをもとに、回路と外装の開発、使う伸縮素材の検討、ライブラリの開発を行い、一般的な機材や素材で、1センサあたり300円程度でセンサを作ることに成功している。
【既発表関連資料】
日本VR学会大会,ACM VRST2019
【講評】ストッキングを使った先行研究を強い執着力で深め、最終的にインパクトのある価格帯と品質になるまでたった一人で錬成している。環境ノイズにも強い全身モーショントラッキングが可能であり、今後の発展も期待できる。地方在住学生であるハンディを超え、世界に挑戦する姿勢、アバター社会へ貢献のための熱量を感じる提案。
アバターファッションデザイン
劉卓(リュウタク) (デジタルハリウッド大学大学院デジタルコンテンツ研究科)
Twitter
@ralicre
- キャラクター表現技術
- バーチャルギフト
- アバター社会
- VTuber活動分野を広げる未来技術
バーチャルリアリティの普及における必然な未来として、衣装とファッションの発展が重要である。バーチャル世界は衣装の特異性、特に「現実世界での普段の衣装はバーチャル世界で直接使うとダサくなる」という仮説に基づき、バーチャル世界の衣装を現実世界の衣装と同じ重要性担うために「アバターファッションデザイン」を技術として提案する。
【講評】これはデザインなのか?ともすればVRoidというツールの上の塗り絵でもあり、パタンナーの仕事とも言えなくもない。テクノロジーというよりはテクニックなのではないか?という評価もあり得るだろう。しかし「イメージしたファッションにアバターを着せ替える最適な方法」として理解した場合、数多くの技術的課題が存在する。アバターそれぞれの世界観と社会との関係にフィットする「衣装」として置き換えて考えれば、十分な価値がある。将来的に共通化できるワークフローや技術で改善されるべき課題の種をスピード感と物量のある作例とともに描き出し、非常に短い期間でVTuber達に試着されている。VTuberに評価されたインパクトある提案として評価に値する。
Comparison between Japanese and Western VTuber identity (日本と西洋VTuberアイデンティティの比較)
Liudmila Bredikhina – Masters Degree in Asian Studies at Geneva University(リュドミラ・ブレディキナ/ジュネーヴ大学 アジア研究学修士)
- Anthropology
(Original Title)”Celebrity and Anonymity: Differences and similarities between Western and Japanese VTuber character identity formation”.This research explores virtual character formation, notion of self and self-presentation based on classic identity theories by Schegloff, Van Langenhove and Harré, Butler and cognitive science. It aims to introduce differences and similarities in virtual identity construction between Western and Japanese VTuber. Western and Japanese VTuber were asked to answer a survey designed to understand, from different perspectives, the thought process behind virtual identity construction.
原題「Celebrity and Anonymity: Differences and similarities between Western and Japanese VTuber character identity formation」(有名であること・匿名性:西洋と日本のVTuberキャラクターアイデンティティ形成の違いと類似点)。この研究は、仮想キャラクターの形成、自己および自己提示の概念について、Schegloff、Van Langenhove、Harré、Butlerおよび認知科学による古典的アイデンティティ理論に基づいて調査します。欧米と日本のVTuber間の仮想アイデンティティ構築の違いと類似点を紹介することを目的として、欧米および日本のVTuberのアイデンティティ構築の背後にある思考プロセスを異なる視点から理解するために設計されたアンケート調査を実施しました。
【調査にご協力ください】メッセージ
【講評】日本と欧米のアバターアイデンティティの差異と共通性に関する調査研究であるが、日本語、フランス語、英語で同時にメールやSNS、Googleフォームを介して展開している。現在の日本のVTuberムーブメントを人類学の切り口で描写した研究は価値が高いが、過去に初音ミクの研究などで述べられている見解と異なり、キャラクター設計のアイデンティティ決定のほとんどは、ユーザー自身が決定している点など新しい発見がある。スイスからのリモート研究を通して提案者自身がVTuber/アバター社会に深く入り込んでいく様子が興味深い。
参考作品
最終発表会で公式番組内での登壇には至りませんでしたが、優秀な提案かつご本人のご許諾をいただけたエントリー作品を紹介します(順不同)。
- 「さりげないアプローチを行うキャラクターエージェントによる展示作品への無意識的な誘導」
松田 康生(大阪工業大学大学院・情報科学研究科・博士前期課程) - 「ギフトをもっと面白く!」 なでしこ大和(やまとミュージアム)
- 「LightField背景を用いたVTuberによる外ロケ」國見 樂(法政大学情報科学部コンピュータ科学科 / 実世界指向メディア研究室)https://blog.uminek.ooo/202020218
- 「CLI/CUIでVTuberする~ASCII Artでモデルを作る 」Cj.BC_SD